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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)4266号 判決 1991年3月25日

原告

有限会社旭製作所

被告

三ツ矢鉄工株式会社

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、登録第1033019号特許権に基づき、原告に対して、原告が別紙物件説明書記載の各紙管口金取付装置及びこれらを装着した各紙管口金取付機を生産し、使用し、譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡のために展示する行為の差止を請求することはできないことを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文第一項同旨

第二当事者の主張

一  原告の主張

1  被告の権利

被告は、左記の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有する(争いがない)。

(一) 発明の名称 紙管口金取付装置

(二) 出願日 昭和49年3月30日(特願昭49―35902)

(三) 公告日 昭和55年7月3日(特公昭55―25109)

(四) 登録日 昭和56年2月20日

(五) 登録番号 第1033019号

(六) 特許請求の範囲

「1 紙管口金に対し挿脱すべき嵌合筒3と、外周に円弧状プレス面51内面に外方へ拡大するテーパ面52を有す複数のプレス駒5及び内面に前記テーパ面52と一致する内向き拡大の傾斜面62を有し先端に円弧状プレス面61を有す複数の出没駒6とを交互に組み合わせて前記嵌合筒3に半径方向へ出没可能に支持せしめ両駒のプレス面51、61の連続によつて真円を形成するプレス具4と、隣接プレス駒間を引張つてプレス具4を縮小保持した牽引手段7と、前記プレス具4の出没駒6の中央に挿入された先細斜面81を有す楔軸8と、楔軸8の斜面上に配置されバネで押し下げられて筒周面から没入し先端に尖端91を有すポンチ駒9と、楔軸を往復駆動させポンチ駒9及びプレス具4を出没作動せしめる駆動装置10とから成る紙管口金取付装置。」(別添特許公報―以下「本件公報」という―該当欄参照)

2  本件発明の構成要件

本件公報の特許請求の範囲欄の記載によれば、本件発明の構成要件は、次のとおり分説するのが相当である。

(一) 紙管口金に対し挿脱すべき嵌合筒3と、

(二) 外周に円弧状プレス面51内面に外方へ拡大するテーパ面52を有す複数のプレス駒5及び内面に前記テーパ面52と一致する内向き拡大の傾斜面62を有し先端に円弧状プレス面61を有す複数の出没駒6とを交互に組み合わせて前記嵌合筒3に半径方向へ出没可能に支持せしめ両駒のプレス面51、61の連続によつて真円を形成するプレス具4と、

(三) 隣接プレス駒間を引張つてプレス具4を縮小保持した牽引手段7と、

(四) 前記プレス具4の出没駒6の中央に挿入された先細斜面81を有す楔軸8と、

(五) 楔軸8の斜面上に配置されバネで押し下げられて筒周面から没入し先端に尖端91を有すポンチ駒9と、

(六) 楔軸を往復駆動させポンチ駒9及びプレス具4を出没作動せしめる駆動装置10とから成る

(七) 紙管口金取付装置

3  原告の製品

原告は、別紙物件説明書記載の各紙管口金取付装置(以下「原告現製品」という。)及びこれらを装着した各紙管口金取付機を、昭和59年1月ころから製造し、使用し、販売し、貸し渡し、販売若しくは貸渡のために原告本社社屋内に展示してきた。

4  原告現製品の技術的構成

原告現製品の技術的構成の分説は、次のとおりである。

(一) 紙管口金に対し挿脱すべき嵌合筒3'と、

(二) 外周に円周方向に楔型凹部と凸部を備えた円弧状プレス面51'と内面に外方へ拡大するテーパ面52'とを有する六個のプレス駒5'(別紙参考図面二参照)、及び内面に前記テーパ面52'と一致する内向き拡大の傾斜面62'を備えた六個のプレス駒押圧部6'(六個の出没ブロツク94'の各一部)とを交互に組み合わせて前記嵌合筒3'に半径方向へ出没可能に支持せしめプレス駒5'の円弧状プレス面51'の連続によつて真円を形成する(なお、プレス駒押圧部6'の先端はプレス及びポンチ打ち時においてもプレス駒5'の円弧状プレス面51'にまで到達せず、別紙物件説明書の両口型、片口型各図面の第6図に示す如くプレス駒間に間隙が生じる。)プレス具4'と、

(三) 隣接プレス駒間を引張つてプレス具4'を縮小保持した牽引手段7'と、

(四) 前記プレス駒押圧部6'と後記ポンチ部9'とを一体に形成した六個の出没ブロツク94'の間の中央に挿入された先細斜面81'を有する楔軸8'と、

(五) 楔軸8'の斜面上に配置されバネで押し下げられて筒周面から没入し先端に尖端91'を有する六個のポンチ部9'(六個の出没ブロツク94'の各一部)と、

(六) 楔軸を往復駆動させポンチ部9'及びプレス具4'を出没作動せしめる駆動装置10'とから成る

(七) 紙管口金取付装置

5  本件発明の構成要件と原告現製品の技術的構成の対比

本件発明の構成要件と原告現製品の技術的構成とを対比すると、原告現製品の技術的構成(二)は、プレス駒押圧部6'はその先端に円弧状プレス面を備えていない点及び該装置の拡大時(プレス及びポンチ打ち時)においてもプレス駒押圧部6'の先端はプレス駒5'の円弧状プレス面51'にまで到達せず、別紙物件説明書の各第6図に示す如くプレス駒間に間隙が生じる点において、本件発明の構成要件(二)の「先端に円弧状プレス面61を有す複数の出没駒6」及び「両駒(プレス駒と出没駒)のプレス面51、61の連続によつて真円を形成するプレス具4」の各要件を充足しない。

右各要件は、本件発明の必須の構成要件であるから、その余の点について論ずるまでもなく、原告現製品の技術的構成は本件特許権の技術的範囲に属さない(なお、原告現製品が本件特許権の技術的範囲に属さないことについては、争いがない。)。

6  原告・被告間の原告現製品についての紛争

(一) 原告と被告との間には、被告が原告に対して、本件特許権に基づき、かつて原告が製造し、販売していた紙管口金取付装置(別紙参考図面一参照。以下「原告旧製品」という。)及びこれを装着した両口型、片口型紙管口金取付機について、その製造販売の差止と損害賠償を請求する訴訟(当庁昭和60年(ワ)第7434号事件。以下「別訴」という。)が係属している(争いがない。)。

(二) 原告現製品は、原告旧製品を設計変更したものであり、前記のように本件特許権に抵触しないことが明らかであるにもかかわらず、被告は、原告の顧客に対して、原告現製品及びこれを装着した紙管口金取付機も本件特許権を侵害するもので将来差止ないし損害賠償請求訴訟の対象となるかの如く言い触らしており、ことに原告旧製品についての別訴提起後は、右訴訟を悪宣伝に利用している。そのため、原告は原告現製品及びこれを装着した紙管口金取付機についてその販売上多大な障害を受け、損害を蒙つている。

二  被告の主張

被告は、過去において、原告現製品が本件特許権を侵害するものであるかのように言い触らしたことも、別訴を悪宣伝に利用したこともない。

原告現製品は、本件特許権の技術的範囲に属するものではなく、被告は、原告現製品及びこれを装着した紙管口金取付機について、本件特許権侵害の主張、製造販売差止の請求をする意思はない。

従つて、原告と被告との間には、原告が原告現製品及びこれを装着した紙管口金取付機を製造販売することにつき、本件特許権に関わる争いは存在しないから、原告の本件訴えは、確認の利益を欠く。

第三当裁判所の判断

前記のように、本件訴訟において、被告は、原告現製品が本件特許権の技術的範囲に属さないことを認めたうえ、同製品及びこれを装着した紙管口金取付機について本件特許権侵害の主張、製造販売差止の請求をする意思がない旨を述べていること、別訴の対象は原告旧製品及びこれを装着した紙管口金取付機のみであつて、同訴訟においても被告(同訴訟原告)が原告現製品が本件特許権を侵害する旨の主張をした形跡が窺えないこと及び弁論の全趣旨によれば、将来、被告が原告に対して、原告現製品及びこれを装着した紙管口金取付機について本件特許権侵害の主張、製造販売差止の請求をするおそれがあるとは考えられない。又、別訴における原告旧製品に関する原告・被告間の争いは、本件訴えの確認の利益を認めさせるに十分なものではない。従つて、現時点において、原告現製品及びこれを装着した紙管口金取付機に関する原告の法律上の地位の不安定(確認の利益)が存在するとは認められない。

よつて、原告の本件訴えは、確認の利益がないからこれを却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 長井浩一 裁判官 辻川靖夫 裁判長裁判官上野茂は転補のため署名押印することができない。裁判官 長井浩一)

<以下省略>

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